入江泰吉旧邸①

吉城園、依水園を抜けて、北側の戒壇堂へと目をやると

こちらの風景です。

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通りに面してひっそりと佇むこちらのお宅。

昭和の奈良を撮り続けた、写真家 故入江泰吉氏がお住まいでした。

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門をくぐり、玄関へと誘われると

5.玄関

草木は伸び、枯葉が降り積もった屋根。

瓦のムクりは最初からのものなのか、それとも雨漏れによって傷んだ隅木が垂れているのか・・・実際に小屋裏を開けてみるまではわかりにくいものです

6.瓦1

外観としては

長らく手入れされてこなかった、空き家という印象でした。

 

玄関を上がって、次の間を通って

8帖の床の間のある和室・・・ここの建具と柱がすでにコケていました

10.傾き加減

西側、吉城川の方へと目をやれば、続きの和室6畳の垂壁には雨漏れの跡

9.雨漏れ

視線を落とすと、敷居の厚みが左右で異なる・・・

11.傾き加減2

などなど

改修のお宅に最初に現調に伺う際にしばしば思う事ですが

室内側で異変に気づくときには

その内部は既にたいていヤバいことに成っています。。

 

此方もそれは例外ではない様子です。

それらの原因は複合的です。

一つには、空き家になり、誰も住んでこなかったことで異常が起こっていても

具に気付けなかったこと。

一つには、増築を繰り返し、歪な平面形状・複雑な屋根形状をしていて、雨漏れ、木部の腐朽が進行したこと

一つには、地形状に合わせた吉野建て(懸け造り)になっており、高低差のある部分で

耐震性に配慮した強靭な基礎がなされていない

12.吉野建て 13.吉城川の方 13.吉野建て 14基礎

などなどが挙げられます。

 

建物としては、もとは依水園の敷地内にあった建物を移築してきたとか、

戦後進駐軍の手に渡ったあと、入江氏が移り住んだなどと

聞き及んでおります。

 

お料理が得意だったという入江夫人が

使われていたであろうキッチン

 改修前キッチン

明りとりの下地窓

 キッチン下地窓

今はあまり見られなくなった板金仕事、菊絞り               

 菊絞り

引手の金物も真鍮製で、扇

 引き手

入江氏の書斎の横にあるトイレ・洗面室はなかなか凝った作りで

個人的には残してほしかったのですが、こちらは改修して物入れになるようです。

 改修前トイレ 改修前洗面

所々に、季節や自然への畏敬を感じさせる面影・佇まいが感じられ

庭の苔むした石段に椿がひとかたまりの花を落したさまに心を奪われては

カメラマン気取りでそれらにシャッターを切りまして・・・

入江泰吉氏も此処でそんな時間を過ごさはったのかもしれないなぁと

思いながら現場調査に伺っておりました

 最後の写真

(入江泰吉旧邸②へつづく)

德矢 誠三
德矢 誠三